仰げば尊し我が師の恩

 今週、いよいよ高校を卒業する。この3年間は、長かったような、終わってみれば一瞬だったような、そんな感じだ。部活も勉強も恋愛もしなかったから、あんまり高校生らしい高校生じゃなかったような気もする。やっぱ白球を追って青春を燃やし尽くすような高校生活を送ればよかったかなって気もするけど、周りにそんなやつは全然いないし、こういうモヤモヤした過ごし方も青春のひとつなのかもしれない。

 卒業式の予行もやった。俺の役目は、名前を呼ばれたら返事をして、賞状みたいなやつを受け取るだけ。仰々しく予行をやるほどのこともない。途中で礼が揃ってないということで、何度かやり直しさせられたけど、3年ともに過ごしてきて揃わないなら、もう永遠に揃うことはないだろう。

 卒業式のクライマックスは、「仰げば尊し」の合唱。この歌、卒業式の定番らしいが、はっきり言って時代遅れだろ。「思えば いと疾し この年月」なんて言葉使うやついないだろ。案の定、先生が歌詞の意味を説明しはじめちゃうし。先生が「先生への恩は尊いですね〜」って話すの、ある意味ファシズムディストピアだな。

 こっちは普段「うっせぇ うっせぇ うっせぇわ」とかやらせてもらってるんで、「身を立て 名をあげ やよ励めよ」はリアルじゃない。やっぱ歌っていうのは、気持ちを乗せられるようなリアリティがないとダメだ。

 俺は自分の気持ちを乗せられるようなリアルな「仰げば尊し」の歌詞を考えだした。卒業式の予行はほとんどの時間がただ座っているだけなので、ちょうどいいヒマつぶしになった。「3年通ったこの校舎 先生ありがとマジ感謝」というリリックを思いついた後は、「恩赦」という言葉以外なにも出てこなくなって、お歌詞作りは止まってしまった。

 いよいよ、卒業式の予行も「仰げば尊し」を歌うところまで来た。そしたら、先生が「こういう状況だから、君たちに歌わせるわけにはいかない。そこで、コーラス部に作ってもらった録音を流すことにします。卒業生は起立して、音楽を聞いてください。」と言った。

 マジで意味わかんないし、空虚すぎてヤバいけど、俺の3年間の締めくくりとしては、ちょうどいいリアルさがあるかもしれない。

 

 

暗殺教室~卒業編~

暗殺教室~卒業編~

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