あちら側はどこからも切れない

 おれは頭が切れる。と言っても、頭の回転が速いとか、そういうことではない。月に一度か二度、物理的に頭が切れてパックリと開いてしまうのだ。そうなると、切れた頭がどっかいってしまわないように抑えているだけで精一杯になってしまう。
 どうせならもっとスパッと切れればいいのに、と思う。おれの頭ってやつは、「こちら側のどこからでも切れます」と書いてあるカップ麺のスープが入った小袋がうまく切れない時のように、だらしなく変形しながらなかなか切れない。
 頭が切れる時は、身体への負担が大きい。自分のところだけ重力が10倍になっているような、手足が金属になってしまったかと思うほど重くなり、とにかく動けなくなる。動けたとしても、とんでもなくスローな動きだ。そんな状態なのに、切れた頭をしっかりと押さえておかなければならないから、しんどい。
 ひとたびこうなると、精神の状態もめちゃくちゃだ。まず神を憎む。なぜおれだけがこのような試練を味わわなければならないのか。そして社会を恨む。なぜお前たちは苦しんでいないのか。最後に自分を呪う。もう死んだほうがマシなんじゃないのか。
 おれはこの症状(そもそも「症」なのかも怪しい。メカニズムは解明されていないし、薬がなぜ効くのかもわかっていない。)のせいで、まともに働けない。いまの会社は優しい会社で、おれのようなポンコツを受け入れてくれている。もちろん不満もないことはないが、このままここで働けるまで働かせてもらい、働けなくなったら飢えて死ぬだけのことだ。
 おれは時々使い物にならなくなってしまう時があるから、当然重要なポストに就くことはできない。したがって、他の同世代のやつに比べたら収入も劣るだろう。また、周りに迷惑をかけてしまうこともしばしばある。申し訳なく思うし、その分他のことで取り戻そうとはしている。
 だが、おれだって好きでこんなおれになったわけではないのだ。身体が動かせなくなり、迷惑をかけてしまったとき、おれは「すみません」と頭をさげつつ、誰が何に謝っているのかわからなくなることがある。