ずっと気持ちおじさん

 4月になって、職場に大学を卒業したばかりの男の子が入ってきた。ガチガチに緊張しているのがありありと伝わる挨拶をしたあと、何かしなければならないけど何していいかわからず、何を誰に尋ねたらいいかもわからない感じでオロオロとしていた。

 私の部署は、年度はじめが一年で最も忙しく、なかなか彼に構ってあげられないのだ。私は、彼に簡単な書類の整理をお願いし、定時がきたら「帰っていいよ」と言ってあげた。本格的に仕事を教えるのは、今の忙しさがひと段落してからだ。

 周りが忙しそうにしているなか、自分が一番に帰るのは気まずそうだったが、そういう事情を伝えて、気にせず帰るように促した。どうせ来年は彼もこちら側だ。

 ぎこちない挨拶をして帰る彼を見て「若いなー」と思う。年齢的には私のふた周り下くらいか? 私もおじさんになったものだ。

 もちろん、私にも新入社員だった時があった。あの頃は、街で大騒ぎする大学生を見て「若いなー」と思った。

 大学生の時は、受験勉強にやきもきする高校生を見て「若いなー」と思った。高校生の時は、異性の目を意識してスカした態度をとる中学生を見て「若いなー」と思った。中学生の時は、うんこちんこで大笑いしている小学生を見て「若いなー」と思った。小学生の時は、スーパーでお菓子を買ってもらえず、床に寝転んで駄々をこねる幼稚園児を見て「若いなー」と思った。幼稚園の時は、ベビーカーに乗って、周りの空気も読まず、好きな時に寝ている赤ん坊を見て「若いなー」と思った。赤ん坊の頃は、妊婦さんの大きなお腹を見て「若いなー」と思った。胎児の時は、まだ細胞分裂を起こしていない細胞を見て「若いなー」と思った。細胞だった頃は、前世の記憶があったので、まだ死を経験していない人間たちを見て「若いなー」と思った。

 生命の循環と意識の神秘について考えると、今の私って「若いなー」。