卒業式を支配した経験

 どこの学校も今どきは行事にプランナーを入れるそうです。徹底した演出で感動を作り出し、見ている保護者を満足させるっていう戦略だと思います。やらされているこっちは別に面白くもなんともないんですけどね。小学校の運動会なんて、毎年毎年接戦で最後のリレーで勝負が決まるっていう筋書きだったから、前半の競技のモチベーションだだ下がり。しかも、リレーで勝つのは必ず物語を背負っているチームでした。「白組のアンカー、ナリタくんは去年ケガのため去年の運動会には出場できず、悔しい思いをしました」とか「赤組の監督トミカワ先生は、今年が最後の運動会です」とか、リレーが始まる前に過剰なアナウンスが入る。うんざり。

 うちの高校も、今年の卒業式はプランナーに演出を頼むらしい。なんてこった。まず、卒業生が集められて、その演出家の前で軽く演技や歌を見せることになりました。なんだか違和感はあったんだけど、言われるがままにしていました。卒業式の練習が進むにつれて気がついたんですが、この人、たぶんミュージカルの演出家だ。どこかで「式の演出」が「四季の演出」と混ざっちゃったんだ。

 わたしのようなパッとしない生徒には、パッとしない役があてがわれました。『ライオンキング』でいうところのガゼル役みたいなもんです。逆に、いわゆるイケてるグループには華やかな役がふられました。まあ仕方がないことです。彼女たちはオシャレだし、(誘われたことがないのでしりませんけど)カラオケとかもうまいんでしょう。

 わたしたち卒業生は、パートごとに練習を重ね、卒業式予行の日にはじめて全員集合しました。お互いにこの日まで何をやっていたのかよくわかっていなかったので、ここでようやく式の全体像がわかったのです。

 まず、「開式のことば」で教頭が高らかに会の開始を宣言する。すると雄大な音楽に乗って、わたしのような端役の生徒が次々と現れ、最後は音楽の盛り上がりとともに主役級の生徒の登場です。ステージがせり上がり、物理的にもスクールカーストの上下がハッキリ見て取れます。

 そのまま「国歌斉唱」。ただの「国歌斉唱」ではありません。ミュージカルバージョンです。途中で主役級生徒の独白なんかもはいります。そして、卒業生がヌーの大群のごとき様相を見せる「卒業証書授与」。つづく「学校長式辞」と「来賓祝辞」では、老いた王が若き獅子に希望を託して死ぬがごとく輝かしい未来へのエールが語られます。「在校生送辞」でも、後輩から見た卒業生がいかに偉大だったかということが神話のように語られていきます。クライマックスは「卒業生答辞」からの「校歌斉唱」です。主役級の生徒たちはクジャクのような羽を背負って、ステージ奥の大階段を下りてきます。わたしのような端役は客席まで下りて笑顔を振りまきます。

 まぁだいたいこんな感じの流れだったんですが、さすがに付き合いきれないので親に言ってクレームの電話を入れてもらいました。どうやら普通の卒業式になりそうです。