ハンバーガーデイの革命

 小さい頃、ハンバーガーは特別な食べものだった。いつもお母さんが連れて行ってくれる国道沿いのマクドナルドには大きなアスレチックみたいなのが併設されていて、わたしはそこで遊ぶのが好きだった。特にボールプールが好きで、連れて行ってもらうとずーっと薄いプラスチックでできたボールの中に潜っていた。

 ハンバーガーを食べるということは、おもちゃ(ハッピーセットのおまけ)をもらうこととアスレチックで遊ぶこととセットだった。だから、お母さんが「今日のお昼はハンバーガーにしようか」というと幼いわたしは文字通り狂喜乱舞した。

 わたしが毎日毎日「ハンバーガー食べたい!」と騒ぐもんだから、お母さんは困って、ひとつルールを作った。ハンバーガーを食べに行くのは毎月22日。こうしてハンバーガーデイが制定された。

 はじめは、毎月22日が待ち遠しくて、カレンダーの22日をシールでデコっては、その日が来るのを指折り数えていた。でも、わたしも成長して、以前ほどハンバーガーが好きではなくなっていた。アスレチックでも遊ばなくなった。

 だんだんハンバーガーデイは義務みたいな感じが強くなってきてしまった。「ハンバーガーを食べられる日」から「ハンバーガーを食べなきゃいけない日」に変わってしまった。もう何年も続けてきた習慣だし、なんとなくわたしもお母さんも「もう止めようよ」とは言えず、毎月22日はハンバーガーを食べた。諦念の味がした。

 そのうち、モスバーガーにはライスバーガーという、米で焼き肉を挟んだメニューがあることを知った。わたしは早速お母さんにそのことを報告し、初めてマクドナルド以外のお店でハンバーガーデイが催されることになった。

 「わ、ほんとにハンバーガーがご飯でできてる!」「これハンバーガーにカウントしていいの?」「むしろおにぎり側だよね」「意外とおいしい!」などと、その日のハンバーガーデイは久しぶりの盛り上がりを見せた。

 さらにモスバーガーには菜摘(なつみ)というレタスで肉を挟んだメニューなんかもあり、マンネリ化していたハンバーガーデイにある種の革命を起こした。世界が拡がったような気がした。わたしたちは色々なハンバーガー屋さんの情報を集め、ハンバーガーデイになると美味しそうなお店や面白そうなお店に出かけるようになった。それがいけなかった。

 近場のお店を一通り制覇したわたしたちは、原点回帰っていうことで、久しぶりにいつもの国道沿いのマクドナルドに行くことにした。しかし、様子がおかしい。アスレチックの上になにやら偉そうな格好をした大人が立っている。聞けば、この人はハンバーガー皇帝で、この店舗を拠点に日本政府へ反旗を翻し、ハンバーガー帝国として独立したのだそうだ。わたしたち親子が目を離したばっかりに、こんなよくわからないやつに思い出の場所を乗っ取られてしまった。

 ハンバーガー帝国は破竹の勢いで勢力を拡大し、今では日本の3分の2を支配している。といっても、今までと生活が大きく変わるわけではない。そのせいか世間の関心も低く、みんなハンバーガー帝国の民になることに抵抗がないようだ。このままでは日本がハンバーガー帝国に取って代わるのも時間の問題だろう。

 ただ、ハンバーガー帝国は臣民にひとつだけ新しいルールを課した。それが「毎月22日はハンバーガーを食べること」。

 わたしたちは今、レジスタンスとしてハンバーガー帝国と戦っている。だって、「ハンバーガーを食べなきゃいけない日」の退屈さを知っているのはわたしたちだけなんだから。