奮戦した敵を手厚く葬る指揮官になる妄想

 つまらん。何がつまらんかって上司ですよ。まぁ簡単に身近な上司を紹介しますと、まず責任とらない系上司。仕事を押しつけるだけ押しつけておいて、何かミスがあると「担当者の責任」とか言ってくる。

 次に勘違い系上司。若手の意見もちゃんと聞いてるぜ!俺についてこい!みたいな奴。距離を詰めたいのかなんだか知らないが、馴れ馴れしく話しかけるな。

 あと、いい人。仕事のケアもそうだし、きちんと休みが取れてるかも見てくれている。的確なアドバイスをくれるし、精神論を振りかざすこともない。仕事がしやすい。

 以上。全員クソ。いや、実生活ベースで考えたら3番目の上司は最高なんだけど、やっぱつまらん。クソつまらん。

 まず振れ幅が小さすぎる。イヤな上司って言ったって、まぁたかが知れてる。感情が高ぶると背中から生えている管状の器官から毒霧を噴射するとか、仕事でミスした部下は速攻で首を切り落としデスクの脇には首のない死体が散乱してるとか、そういうイヤな上司がいない。

 いい上司にしてもそう。なんか普通の人の範疇。範囲内の味方全員の機動力を倍にする能力の持ち主とか、幼い日の部下を巨大サメから身を挺して守り右腕を失うとか、そういうやつはいない。つまらん。

 もし俺が、部下を率いる立場になったら「奮戦した敵を手厚く葬る指揮官」になるね。

 他社と企画のプレゼン合戦になったとする。これは大きな仕事だ。負けるわけにはいかない。こちらは中堅のカンバヤシにリーダーを任せる。カンバヤシは手堅い仕事がウリだが、爆発力がない。この戦を通して1つ上の男になってもらおうという采配だ。(失敗が許されない状況で、こういう不確定要素に賭ける豪胆さが上司としての俺の魅力でもある。)

 最初は緊張でガチガチだったカンバヤシも、俺のフォローで周りを見る余裕ができてくる。こうなると、元々人望のあるカンバヤシだ、うまく周りを巻き込んで最高の仕事をしてくれた。準備は万端だ。

 プレゼン合戦の当日、ライバル会社のプレゼンターはドクロガワだった。どんな汚い手段を使ってでもプレゼンを成功させることで有名な傭兵だ。この業界では嫌われ者だが、その腕前は誰もが認めている。相手にとって不足はない。

 いよいよプレゼン合戦が始まった。しかし、カンバヤシの様子がおかしい。プレゼン用のリモコンの調子がおかしいのか、スライドがいつまで経っても次に進まない。

「キヒヒ、お前の探しているのはこれかい?」

 ドクロガワの手には単四電池が! こっそりカンバヤシのリモコンから電池を抜いていたのだ。噂通りの卑怯さだ。だが、こんなことで鍛え上げられた我らの兵は動揺しない。後輩のカヤマがアイコンタクトでスライドをめくっていく。日頃の信頼関係があってはじめてできる阿吽の呼吸だ。

 カンバヤシのパワーポイントが炸裂してドクロガワは爆発四散した。我が軍の勝利だ。

 カヤマがドクロガワの遺体に杭を打ち込んで、それを掲げて勝利を誇示しようとしたところを俺は制止する。

「なんで止めるんですか!」

 俺は黙ってドクロガワの遺体からペンダントを外してカヤマに見せてやる。そこにはドクロガワとその娘の写真がはめ込んであった。こんな時代では、娘を守るために汚いことでもなんでもやるしかなかったんだろう。

「こやつにもこやつなりの正義があったのだ。真の戦士として手厚く葬ってやれ」

 みんながみんな生きることに必死なのだ。この戦いに正義はない。あるのは純粋な願いだけである。我々は敬礼をもってドクロガワの遺体を大海原に送り出した。