大学の先輩めっちゃダーツ誘ってくる

 ダーツなんて今まで1回もやったことなかったのに、大学生になったらメッチャ誘われるようになった。何これ?

 特に男の先輩がメッチャやり方を教えてくれる。おさがりのマイダーツももらった。何これ?

 ダーツでは、そのゲームで最下位だった人が、テキーラのショットを飲むのがルールらしい。何それ?

 さすがの私でも、もう気づいたけど、これは罠だ。たぶんダーツは経験がものをいうスポーツで、先輩が後輩にデカい顔をできるツールなのだ。しかも、ダーツバーなら自然と酒を勧めることができる。そうやって、先輩男子が後輩女子を籠絡するのに使うんだろう。

 でも、何故か私は初心者なのにダーツが上手かった。イノシシ狩りが盛んな福井の血だろうか。初挑戦の時から「ピューンッ」という盤の中心を射る音が鳴り響いた。ダーツ盤の真ん中はブルズアイ(牛の目)と呼ばれている。

 「好きこそ物の上手なれ」という言葉は嘘で、本当は逆だ。やっぱり上手くできるものは楽しい。私はどんどんダーツが好きになった。誘ってくれた先輩を何人も泥酔させてそのまま置いて帰ったりした。そしたら誰もダーツに誘ってくれなくなったので、私は淡々と1人でダーツをするようになった。

 当たり前だけど、1人でやる方が投げる順番が回ってくるのが早い。私はどんどん上達していって、そこらの素人とは一線を画すダーツプレイヤーになった。

 月日が経って、私も先輩になった。あの時、後輩だった同級生も先輩になって、新たに後輩をダーツに誘うようになっていた。私もそれに便乗して一緒にダーツに行った。

 もう私のダーツの実力は、普通に楽しむ人の域を超えていたので、一緒にプレイする時は的までの距離を2倍にしたり、目隠しして投げたりした。それでも、ほとんどのゲームで私が勝った。あとにはテキーラで泥酔した人の形をした何かが残った。

 とにかく私はダーツが強すぎたから、ハンデのためにどんどん曲芸じみたことをやるようになって、ロデオマシーンに乗りながら投げたり、後ろ向きで投げたりした。

 私がダーツクイーンとして畏怖の念をもって迎えられるようになってしばらくして、卒業の季節がやってきた。大学を卒業するということは、イニシエーションとして就職活動をしなければならない。1年生の時から、先輩に騙されてダーツに連れていかれ、自分が先輩になってからも後輩と遊びに行ってはテキーラを飲まされて泥酔していたユキちゃんは、広告代理店への就職が決まった。ダーツに負けてテキーラを飲まされたことなど一度もない私は、全然就職先が見つからなかった。

 私は見栄を張って、英国諜報部にスカウトされたと周りに言っている。冗談のつもりで言ったのだけど、周りの人は何もつっこんでこない。このままだと困るので、どこか私を雇ってください。4メートルくらいからなら、動脈程度の太さの的に、歩きながらでも針を刺せます。