鏡よ鏡

 小さい頃「白雪姫」に出てくる魔法の鏡に憧れて、手鏡に話しかけていたら、なんと返事をしてくれるようになった。魔法の鏡と言っても、ちょっと受け答えができるってだけだったので、いつの間にか話しかけることもなくなってしまった。そもそも語彙が極端に少ない。ハッキリ言ってSiriとかPepperくんとか、最近の家電の方がよく喋る。

 この前、彼氏にフラれた。というか、こっちがフッたんだけど、原因は向こうの浮気だった。浮気というか乗り換えだ。私よりも可愛くてスタイルもよくて賢い隣のクラスの女の子といい感じになってたらしい。私とは別れるつもりだって周りに言ってたそうなので、先に言い出してあげた。
 そういうことがあったから、私は久しぶりに手鏡に話しかけた。ほとんど何も答えられない手鏡だけど「世界で一番美しいのは誰?」と聞くと、必ず私の名前を言ってくれるのだ。

「鏡よ鏡、鏡さん。世界で一番美しいのは誰?」

 手鏡は、やっぱり私の名前を言ってくれた。でも、そんなことはないっていうのは私が一番わかっている。私は可愛くない。心の中も嫉妬と強がりでいっぱいだ。頭も悪いし怠け者で、そのくせ不満ばっかり。
 私は自分が心底イヤになって、思わず手鏡を叩き割ってしまった。
 我に返ってすぐ後悔したけれど、もう鏡はバラバラになっていて、元には戻せそうもなかった。
 私はゴムボールに鏡の破片を貼り付けてミラーボールを作った。部屋に吊り下げて、辛いことがあった時には光を当てながら部屋を暗くして音楽をかける。音楽をかけて踊る。踊ってるとミラーボールから声援みたいなものが聞こえる気がするけど、たぶん気のせいだ。