ミイラ取りがミイラになるまで

 「ミイラ取りがミイラになる」って諺が好き。
 詳しくは知らないけど、ミイラって内臓抜き取ったり、腐らないように色々工夫したりしなくちゃいけないから手間暇かかるんでしょ? それなのにミイラ取りがミイラになるって、それはもう出世といって差し支えないんじゃないの?
 だいたい、ゾンビじゃないんだから、ミイラには人間をミイラに変える力なんてない。ということは、ミイラ取りは生きている人間に「たとえ手間がかかっても、この人をミイラにしたい」と思わせたってことだよね。なんという人間的魅力の持ち主なんだ。すごすぎる。
 そんな素晴らしい人間が、なぜミイラ取りなんて怪しげな仕事をしているんだろう。ミイラ取りって言葉の響きから言って、たぶんカタギの職業じゃない。おそらく盗掘の類だ。
 きっと、ミイラ取りはスラム街で生まれ育って、スリをして日々を生き抜いてきたんだけど、ある日考古学者の老教授の荷物に手を出して捕まってしまったんだ。でも、その老教授は「そんなに金が欲しいなら、わしの仕事を手伝わんか?」と誘ってくれて、それからミイラ取りは老教授について遺跡を巡るようになった。もう老教授は亡くなってしまったけど、ミイラ取りはすっかり考古学に詳しくなっていて、学者顔負けの知識と経験を持っている。ただ、唯一の家族である妹が難病に苦しんでおり、その手術のためにまとまったお金が必要で、マフィアが持ちかけてきた盗掘の話にのってしまったんだろう。心の中では教授に申し訳ないという気持ちでいっぱいに違いない。
 実はマフィアは最初から金を渡す気などなく、ミイラを手に入れたらミイラ取りを裏切って殺そうとするんだけど、最後に罪悪感と教授への感謝の気持ちからミイラ取りはミイラを守って死ぬ。その様子を見て古代から続く墓守の一族が心を動かされ、ミイラ取りをミイラにした。後日、妹の元には送り主不明の小包が届き、中には古代の装飾品がたくさん詰まっているのだった。
 まぁそういう壮大な物語をもった諺なわけですよ。