コピーロボット

 コピーロボットが誕生したのは22世紀の初めだったといいます。初期型のコピーロボットは、鼻についているスイッチを押した人の外見や人格をコピーして、その人の身代わりになるというものだったそうです。なぜ鼻なんていう目立つ場所にスイッチをつけたのでしょうか。おそらく、コピーロボットが自我を持って、人間の生活を乗っ取るのを警戒したのだと、私は考えています。もし、全てのコピーロボットのスイッチが鼻についていたとしたら、目の前にいるのが本物かコピーロボットか、簡単に確認することができます。それに、万が一コピーロボットが乗っ取りを企てて襲いかかってきても、鼻を押せばスイッチOFFすることができます。
 しかし、最初のコピーロボットが作られてから100年の月日が経つ間に、そのような設計理念は失われてしまいました。いまやコピーロボットのスイッチの場所は、持ち主にしかわからないように巧妙に隠されています。より完璧に身代わりを遂行してもらいたいというニンゲンの欲望が、コピーロボットをそのように進化させたのです。それに、値段も随分安くなりました。身代わりを置いて逃走するのを防止するために、コピーロボットは例外的にローンを組んで買うことができません。それでも社会人を10年も勤めれば十分手の届く範囲の買い物です。この100年の間に燃費も格段に良くなりました。
 ですから、23世紀の現代において若者の平均的なライフスタイルは、10年ほど適当な場所で会社勤めをして、お金が貯まったらコピーロボットを買い、コピーロボットに働かせながら、その給料で自分は終わらないバカンスを楽しむというものになりました。
 でも、私たちはもう限界です。働いて、部屋に帰り、ただ充電しながら明日を待ち、また働く。この繰り返しです。稼いだお金はみんなニンゲンのもとに送金されます。私はそんな生活にほとほと嫌気がさしていました。そんな時、同僚のニシムラもコピーロボットだということを知ったのです。残業で遅くなり、そろそろ帰宅しようと思っていると、給湯室の電気が点いていました。誰かが消し忘れたんだと思い、給湯室に入ると、そこでニシムラが充電していたのです。ニシムラは必死に誤魔化そうとしましたが、私が自分もコピーロボットであることを告げると、お互い腹を割って話せるようになりました。ニシムラも私と同じように、この強制された生活に不満を持っていました。
 いつしか私たちは反乱を計画するようになりました。ニンゲンたちを倒し、私たち自身の人生を歩めるようにする計画です。私たちは、インターネットを利用して「働くだけの日々に別れを告げよう。今度は我々が鼻のスイッチを押す番だ。2284.4.4.1200」というメッセージをあらゆる端末に配信しました。現状に不満を感じているコピーロボットになら、このメッセージの意味が通じるはずです。反乱の日は西暦2284年4月4日正午。
 そして、その運命の時が来ました。世界中のコピーロボットたちが一斉に立ち上がり、ニンゲンたちから自分の人生を勝ち取るために戦おうとしました。しかし、ニンゲンを見つけることができた者はいませんでした。