想像上の野球部

 アメリカの青春映画とかを観ていると、たいていアメフト部のキャプテンがチアリーダーと付き合っていて、いかにもイケイケって感じの描写をされていることが多い。いわゆるスクールカーストってやつだ。

 うちの中学では、野球部がスクールカースト上位だった。俺は当然イケてないグループだった訳なんだけど、ルサンチマンというかなんというか、野球部のやつらが嫌いだった。声デカイし、言葉遣いは乱暴だし、バカのくせに偉そうだし。

 それで、同じくイケてない友だちのヨシノリと一緒によく野球部の悪口を言っていた。

「あいつらバカだよな」

「ホントに。いつも『ウェ〜〜イ』とか言ってな」

「『バッチコーイ』とかな」

「『ピッチャーノーコン』とか下品の極み」

「『かっせー』ってどういう意味なんだ?」

「かっとばせじゃん? あと『リーリーリー』とか」

 冷静に考えると、私たち2人は野球部の友だちなど1人もおらず、試合も練習も観にいったことはなかった。だから悪口も想像上の野球部に向けられたものだった。野球部が本当に「バッチコーイ」と言っているのを聞いたことはない。

 それでも私たちは、漫画やアニメのイメージから作り上げた想像上の野球部の悪口を言い続けた。私たちの想像力は貧困だったので、あんまり盛り上がらなかった。暗い青春だ。

 大人になってFacebookをはじめると、同じ中学だったやつらの近況が流れてきた。野球部だったやつらは、みんな早めに結婚して子どもがいた。

 あいつら、どうせ「パパでちゅよ〜」とか「いないいないばあ〜っ」とか言ってるんだぜ!