サンタクロース殺害計画

12月24日、クリスマスイブ。
それは、誰もが楽しい時を過ごす素敵な日――なんてことはない。
当然、つまらないクリスマスを過ごす人間も多くいる。全ての人が幸せになれるなんてありえませんよ、ファンタジーやメルヘンじゃあないんですから。


坂上ヤスオも、クリスマスを楽しく過ごせないタイプの人間だった。
大学三年生のヤスオは、この歳まで一度も彼女ができたことがなかった。
今年は友人たちもみんな恋人と過ごすことを選んだため、ヤスオはひとりぼっちだった。
実家暮らしのヤスオは、家族に見栄を張って、用事があるフリをして街へ出てしまった。歩いていてもカップルばかりが目につく。


「くそっ。クリスマスがなんだっていうんだ。365日のうちのただの1日じゃないか。周りの雰囲気に流されて浮かれている奴はバカだね」


そんなことを言ってみても、クリスマスが特別な日だということくらいヤスオにはわかっていた。だいたい、自分の応援するアイドルの誕生日は目一杯祝ったヤスオである。


「くそっ。くそっ」


ケーキ、サンタのコスプレ、カップル、イルミネーション、赤、緑、赤、緑……
目に映る全てのものがヤスオの気持ちを尖らせた。そうして、クリスマスに対する憎悪に満ちたヤスオは、クリスマスを台無しにしてやろうと考えた。
サンタクロース殺害計画である。


クリスマスの象徴であるサンタクロースを捕獲し、拷問にかけ、その様子をインターネットで生放送して、全世界を絶望させてやろうとヤスオは考えたのだ。


ヤスオは品川の住宅街の煙突がある家に目をつけた。とても一般の家庭とは思えないほどのイルミネーションを施したこの家になら、絶対にサンタクロースがくるはずだ。ヤスオは煙突が見える位置に身を隠し、サンタクロースがやってくるのを待った。
凍てつくような寒さだったが、ヤスオの中に燃える憎悪の炎がそれを掻き消した。


深夜3時。赤い服を着た人影が、ヤスオが目をつけていた家に近づいた。


「来たな」


ヤスオは、爪をペンチで剥いでやろうとか、漏斗を使ってひたすら水を飲ませようとか、そういった残酷な拷問を妄想しながら飛び出した。


張り込んでる間、何度も自分がサンタクロースを縛り上げる場面を想像していたからか、ヤスオは驚くほど簡単にサンタクロースを捕獲することに成功した。邪悪な喜びで笑みが抑えられない。


「くっくっく。サンタクロース、これから俺が未来永劫、クリスマスの意味を変えてやる。覚悟しな。もうクリスマスに楽しい気分でいれるやつはいなくなるぞ!」


こうしてヤスオはクリスマスを台無しにすることに成功した――なんてことはない。
ヤスオがサンタクロースを捕まえた瞬間、パトカーのサイレンが鳴った。ヤスオは逃げようとしたが、あっという間に周りを警察に囲まれた。やっぱりクリスマスは最低だ。


しかし、意外なことに警察はヤスオを逮捕するどころか、感謝状を贈った。
実はヤスオが捕まえたのは、最近この一帯を荒らしていた押入り強盗だったのだ。警察は、この通称「赤ジャージ」を捕まえるために付近で張り込み中だった、そこにたまたまヤスオも張り込み、サンタクロースと間違えて警察よりも先に「赤ジャージ」を捕まえたのだった。
そもそもサンタクロースなんていませんよ、ファンタジーやメルヘンじゃあないんですから。


こうしてヤスオは一躍話題の人になった。
大学の友だちはみんな彼を尊敬し、合コンでこの武勇伝を話せば女子から大人気だった。
こうして彼は無事に恋人を作ることに成功した。これで来年のクリスマスはサンタクロースを襲うなんて馬鹿なことはしないだろう――なんてことはない。
強盗を捕まえたくらいで彼女はできませんよ、ファンタジーやメルヘンじゃあないんですから。