やーい、おまえんち(いい意味で)お化け屋敷

 家賃が安いという理由で内覧に行ったら、なんとお化け屋敷だった。ボロボロでいわくつきの館だとかっていう比喩表現ではない。純度100%マジもんのお化け屋敷だ。経営が危ない遊園地が、敷地を少しづつ切り売りしているのだ。お化け屋敷を縮小して、その一部を居住区として売りに出したようだ。

 まぁ装飾が不気味だし、暗いけれど、逆に汚れが目立たなくていいかもしれない。お風呂はなしで、トイレや台所は共用だけど、家具付きで何より家賃が安い。私は即決で住むことにした。(不動産屋さんは自分で紹介しておいて意外そうな顔をしていた。)

 住んでみると、意外と悪くない。共用スペースの台所に飲み物を取りに行くと、遊園地の方のお客さんが通りかかったりして、ギャーっと叫びながら逃げていく。部屋で普通に過ごしていても、「ねぇ…なんか音がしない」とか話しているのが聞こえてきたりして、これが面白い。

 最初は普通に過ごしていたら、遊園地のお客さんが怖がるってだけだったが、だんだん自分から脅かしに行くようになっていった。「ぼおおおおおおう」と叫びながら部屋を飛び出したり、血のりのついた洗濯物を干したりした。

 そんな風にお化け屋敷ライフを楽しんで5年目のある日、なんだか外の騒がしさがいつもと違ったので、出てみてみると、大勢の人が何かに抗議の声を上げているようだった。

 詳しく聞くと、経営が危なくなった遊園地は、お化け屋敷だけじゃなく、色んなアトラクションを賃貸住宅として人に貸していた。そして、その住人たちに遊園地のアトラクションをそれとなく手伝わせて人件費を節約していたのだ。私の住んでいたお化け屋敷も、もうほとんどスタッフはいなかったらしい。私が趣味でお客さんを驚かせていたのが、アトラクションの一部として組み込まれていたというわけだ。

 私は、賢い経営戦略だと思ったけれども、世の中には利用されることを極端に嫌う人が一定数いるらしい。この話は社会問題になって、結局遊園地は閉園となってしまった。私は住む場所を失い、ごくごく普通の安アパート(といってもお化け屋敷よりは高い)に住むこととなった。

 こうして私の人生から“おもしろ”が1つ失われたわけなんだけど、お化け屋敷は住み心地が良かったから、今でもたまにその時のことを思い出して「ぼおおおおおおう」と叫びながらドアを開けてしまう。