眠れない夜、僕のせいだね

 夜、眠れないとき、布団の中でじっとしていると、どんどん感覚が鋭敏になってきて、普段は気にならないような建物のきしみとか、遠くの方の電車の音とかが聞こえてくる。そのうち、自分自身の呼吸が気になってきた。

 息を吸うときは「スーッ」という音と同時に「ピーッ」という音も混ざっている。これって普通なのかな。そんな風に考えて、ちょっと不安になる。そういえば、正しい呼吸の仕方を習った覚えがない。もしかして、自分がとんでもなくアブノーマルな呼吸法をしている可能性もあるぞ。

 怖くなってwikipediaで「呼吸」の項目を調べたら、「空気と血液とのガス交換」と定義されていた。血液から二酸化炭素を放出し、代わりに酸素を血液に送っているとのことだ。そんなこと全然意識したことがない。私はちゃんと酸素を吸収できているのだろうか。間違って変なものを血液に送っていたりしないだろうか。

 そういえば、年々体臭が気になるようになってきた。もしかして、これは酸素じゃなくて臭素(臭いの素になる成分)を血液に送ってしまっているからじゃないだろうか。あと最近、徹夜をすることができなくなってきた。昔はカラオケでオールをしてから出勤しても余裕だったのに、今では10時くらいには帰りたくなっている。これも、二酸化炭素の代わりに元素(元気の素となる成分)を排出してしまっているからではないだろうか。

 ちゃんと一般的な呼吸ができているのかが不安だ。wikipediaには平常時の呼吸は毎分6~10リットルと書いてある。1リットルの呼吸ってどのくらいだろう。全然イメージができない。私は布団から出て台所に行き、500ミリリットルのペットボトルを空けて持ってきた。5秒に1回、この空のペットボトルの中の空気を全部吸えば、一般的な呼吸と言える。

 そう考えて実行してみたが、なかなか難しい。口から吸って鼻から吐くつもりだったが、ペットボトル内の空気を完全に空にすることができない。(完全に空になったペットボトルは凹むはずだ。)普通に呼吸をしようと意識すればするほど呼吸をするのが難しくなっていく。何にも考えていなかったときは何となくできていたのに。

 同じようなことは、いろんなことにあって、例えば歩くのも意識し始めるとできなくなってしまう。右手と左足を同時に出して、地面につくと同時に逆サイド。こんな風に考えながら歩いたら、バランスを崩して転んでしまった。

 もしかしたら、意識せずにできることは、意識しないままにしていた方がいいのかもしれない。きっと世界にはそういう無意識がうまく回している領域があって、そこに意識が介入すると秩序が乱れてしまって、物事が成立しなくなってしまうんだろう。

 そういう結論に落ち着いたので、もう余計なことは考えずに寝ることだけを考えよう。と思ったんだけど、寝るってどうやってやるんだっけな……