夏の怪談シリーズ「ぼたもち」

 「棚からぼたもち」っていう諺があるけど、ぼたもちって何だろう? そんなもん棚に置いた記憶はない。しかも「棚から」なんなの? 落ちてくるの? 置いてもないのに棚から落ちてきたら怖い。仮に棚に置いていたにしても、落ちてきたら困ると思う。だって落ちてこない前提でぼたもちを置いたわけだから。

 まぁたぶん、ぼたもちは餅だろう。棚に置くくらいだから、まだ調理してない固い状態の餅だと思う。でも、“ぼた”って語感からはちょっとベタベタしてそうなイメージが浮かんでくる。だけどベタベタした餅を棚に置くのはおかしいしなぁ。

 人間は未知のものを怖がる性質がある。よく知らないものに不用意に近づくのは危険だからね。生物として、生存率を高めるプログラムだ。私はいま、ぼたもちが怖い。

 ぼたもちの正体を考えているうちに、私のぼたもちのイメージはどんどん凶悪化していった。置いた覚えもないのに棚に現れる黒いベタベタした塊。食べると甘いが、それは生き物の生命エネルギーを吸っているからだ。ある程度成長すると、ぼたもちは自然と棚から落ちてきて、人間に取り憑く。「棚からぼたもち」という諺が、「思いがけない幸運」というポジティブな意味になっているのは、取り憑かれた人間が広めたウソ。本来は「棚からぼたもち」という諺は「何もかもを捨てていますぐ逃げなくてはいけないような危険な状況」という意味だ。

 そんな話を妹にしたら、バカにされた。でも妹もぼたもちのことを知らなかった。調べればいいじゃん、と言ってスマホを取り出した妹の頭上にぼたもちが……