ヨネスケForever

 京都のおばあちゃん家の玄関には、謎のフックがある。京都のおばあちゃんと言っても、祖父が亡くなった時にうちの近くに引っ越してもらったので、もう京都には住んでいない。京都の家の玄関にも謎のフックがあったし、いまの家の玄関にも謎のフックがある。小さい頃、そのフックで頭を切ったこともあるんだけど、そういえばあれは何なのだろう。おばあちゃんに聞いてみると、「しゃもじ置き」だと言われた。意味が分からない。

 詳しく聞いてみると、おばあちゃんはテレビ番組『突撃!隣の晩ごはん』の大ファンで、いつ自分の家にヨネスケが来てもいいように、「しゃもじ置き」を取り付けているのだという。そういえば、おばあちゃん家の晩ごはんはいつも気合の入ったメニューで、量も気持ち多めだった。そういうことだったのか。

 その話をしながら、おばあちゃんは泣き始めた。もしかしたら、もう死ぬまでヨネスケは来ないんじゃないか、そう考えると不安で苦しくなるのだそうだ。おばあちゃん、そこまでヨネスケのことを……

 私はおばあちゃんのヨネスケへの想いを手紙にしたため、番組に送った。しかし、待てども待てどもヨネスケは来ない。おばあちゃんも日に日に弱っていっているようにみえる。

 ホントかどうかわからないけれど、おばあちゃんの実家は京都の老舗料亭だったらしい。お見合い結婚したおばあちゃんは毎日腕を振るって料理を作ったが、寡黙なおじいちゃんがそれを褒めることは一度もなかったという。だから、他人の家の晩ごはんを褒めてくれるヨネスケに憧れているのかもしれない。

 おばあちゃんの想いを知って、もう私はいてもたってもいられなくなった。相変わらずヨネスケがくる気配はない。もうヨネスケには任せておけない。

私は段ボールで大きいしゃもじを作り、アポなしで晩飯時のおばあちゃん家に突撃した。私が、おばあちゃんの晩ごはんを(ヨネスケのモノマネで)褒める!

 

 おばあちゃんは私にお茶漬けを出した。