製罐工場

エハッ エハッ

 コッホは細菌学者だ。名前が咳っぽいから覚えやすい。でもゴッホは画家だ。代表作「ひまわり」だと? 名前と関係ないじゃねぇか。覚えにくい。コッポラは映画監督。20世紀の映画監督。

エハッ エハッ

 最近咳が止まらない。工場の煙を吸い過ぎたのだろうか。でも俺は10代のころからこの工場で働いてるし、今更引っ越す訳にもいかない。それでなくたって世界中で空気汚染は進行していて、もう取り返しのつかないレベルになっているらしい。何でそんなになるまで放っといたんだ。
 でも俺だって最近までそのことを知らなかった。俺には知らないことが多すぎる。10代からこの工場で働いてるからな。だから近ごろは本を読むようにしている。何かを始めるのに遅すぎるってことはないからな(これも本で知った)。

エハッ エハッ

 俺は本当に何も知らない。この工場で何を作っているかも知らない。ただ目の前のラインに流れてくる缶にラベルを張り付けるだけだ。周りの奴に聞いてみたけど、誰も缶の中身は知らなかった。まあそんなもんだ。俺だってちょっと前までは気にもしなかった。

エハッ エハッ

 最近俺は少しずつ色んなことがわかるようになってきた。本を読んでいるおかげだ。例えば、工場から黒い煙が出るのは、化石燃料を使っているからだ。化石燃料っていうのは大昔の生き物の死体から出来ているから数に限りがあって、将来的にはなくなるらしい。まあこの空気汚染で人間が滅びるのとどっちが早いかはわからないが。
 化石と言えば、昔マンモスの化石が発見された時、それは人間の化石だと考えられていたらしい。巨人だ。旧約聖書によると、ノアの洪水以前、人間はもっと巨大で長寿だったらしい。でも地球環境の悪化で巨人はいなくなり、寿命も短くなった。
 まあ残念ながら化石はマンモスのものだったし、環境の悪化は人を小さくはしないことも証明されてしまった。寿命は短くなったかもしれないが。

エハッ エハッ

 でも人間が小さくなれば使う燃料も少なくなって、地球の環境も少しは良くなるかもな。工場のラインを眺めながら、俺はそんなことを考えた。人間はこのまま滅びるのだろうか。その時、フタが歪んで接着された缶が流れてきた。エラー品だ。

エハッ エハッ

 タイミング悪く咳込んでしまい、缶を落としてしまった。その衝撃で少し開いたフタからは、小人が見えた。