キンチャクガニの憂鬱

 私の家ではみんな、ティッシュを箱の横から取り出して使っていました。そのことになんの疑問も持たなかったし、特に困ったこともありませんでした。だからティッシュの箱の上に穴を開けて、そこから取り出すのを見た時「これはスゴい裏技だ!」と思って感動しました。(実際には、それは裏技でもなんでもなく、ごくごく一般的なティッシュの取り出し方だったわけなんですけれど。)
 イノベーティブなティッシュの取り出し方を知った幼い私は、ドヤ顔(当時そんな言葉はありませんでしたが)で母親にそれを説明しました。
「ほら、ティッシュのここな、こうやって開けると、こうやって取れるんやで!」
 すると母親は、つまらなそうな顔で「知ってるわ。当たり前やん」と言いました。
 幼い私は、自分の発見が認められなかったことにショックを受けました。いま思えば、この経験がいつか母親を驚かせるような発見をしようというモチベーションになったのかもしれません。おかげで私はカニハサミイソギンチャクがどこからやってくるのかを発見することに成功しました。(カニハサミイソギンチャクは、常にカニに挟まれた状態で発見されるイソギンチャクで、それがどこからやってくるのか長年謎とされてきました。)
 このことを母親に報告すると、さすがの母親も「よくわかんないけど、すごいやん」と言ってくれました。しかし、私はまだ満足しません。次は、なぜ正しいティッシュの開け方を知っていた母親が、ティッシュの箱を横から開けて使っていたかを明らかにしたいと思います。