フィンガーボール

 俺は動物園生まれ動物園育ちの生粋の都会っ子だ。サバンナなんて見たことも聞いたこともねぇ(ホントは聞いたことくらいある)。コンクリートの床と鉄格子が俺の生きる場所だって思ってた。ちょっと前までは……
 最近、動物園では「行動展示」っていう展示方法が流行っているらしい。今までみたいに檻の中で飼うんじゃなくて、自然に近いような環境を用意することで、その動物本来の動きを見せる方法だ。
 俺のいる動物園でもその行動展示が導入されることとなった。俺は一旦別の動物園に預けられ、しばらくして帰ると俺の動物園は全然別物に変わっていた。なんか、草とか生えてて、高低差とかがある。
 はっきり言って落ち着かない。「これがサバンナぽさですよ〜本来の生育環境に近いんですよ〜」とか言われても、俺はサバンナとか知らねぇし。何?草を何?どうしたらいいの?食べるの?上で寝るの?だったらいつもの臭い毛布の上の方が落ち着くんですけど。
 まぁそういうことで新しい環境に慣れることができず、右往左往してたんだけど、さらに厄介なことに新入りがやってきた。やべぇ。ナメられる訳にはいかねぇ。
 動物の世界では、動物園育ちはナメられる。弱肉強食の野生の世界で生きてきたやつの方が箔がつくのだ。だから俺はサバンナ育ちのふりをすることにした。この新しい環境を支配してやるぜ。
 俺は訳のわからない高低差とか水たまりとか木を組み合わせたものの中を縦横無尽に動き回った。その甲斐あってか、新入りも俺に一目置いているようだった。
 新入りも俺と同じように行動している。よかった、合ってたんだ。
 そんな風に先輩風を吹かせていたところ、掃除にきた飼育員が水を飲んでいる俺に言った。

「そこ、トイレだよ」