MISEINENの主張

 我々は、きちんと主張しなければならない。「虫を怖がる女は別に可愛くない」ということを。

 先日、大事な会議があった。私はそこで新しい提案をするために、この一ヶ月準備をしてきた。協力してくれた周りの先輩後輩のためにも絶対につぶされる訳にはいかない。できる限りの根回しもしてきたし、あとは私のプレゼン力にかかっていた。
 いよいよ私が発言する番になった時、蚊以上ハエ未満といった大きさの虫が乱入してきた。すると、よその部署の偉い人が「キャーッ」とか叫んで大騒ぎしはじめた。しばし会議は中断し、参加者は虫を追い出すために右往左往することとなった。
 まぁ5分にも満たない程度の時間だったろうが、会議の緊張感は吹き飛んでいた。みんな、どことなくやり切ったような表情をしている。
 案の定、私の話はなんとなく上滑りしたような感じになってしまい、結論も先送りになってしまった。くそっ、虫ごときで大騒ぎにならなければ、こんなことにはならなかったはずなのに。

 小さな虫くらい無視すればいいのだ(ムシだけに)。だいたい大きさの対比から考えれば、虫の方が人間を怖がっているに決まっている。それなのに虫を怖がるやつが出てくるのは、「虫を怖がる=かわいい」という価値観がどこかにあるからだ。逆に虫を怖がらずに、素手で触ったりできたら「男らしい」と評価されることもあるだろう。
 これだけジェンダー意識が高まってきた現代社会において、虫を怖がることで可愛さを表現できると考えること自体が時代錯誤なんだよ。虫を怖がることで可愛さをアピールするやつも、虫を怖がるやつにか弱さを感じているやつも、どちらも罪人だ。虫が人間と同じサイズだったらともかく、あんな小さいのに大げさに怖がるなんて……

「本当の恐怖を教えてやる」

 怒りに我を失った私は、ハエと共に物質転送機に飛び込み、ハエと融合した。ハエ人間になった私は、愚かな人間どもに恐怖を与えるべく、再び会議の場に姿を現すのだが、意外なことに誰も大騒ぎせず、淡々と前回の会議での提案が承認されたことを報告されるのであった。

「Be afraid.Be very afraid.(怖がってください。とても、とても怖がってください)」