犬街

 仕事帰りにペットショップに寄るのが趣味だ。飼う予定はないが、一応念のためペット可の部屋に住んでいる。
 ペットショップは子犬パラダイスだ。ちっちゃくてフワフワで、見ているだけで癒される。本当に子犬ばっかり。いつ見ても子犬しかいない。最高。犬のネバーランドだ。私はフック船長だ。
 でもこの子たち、大きくなっちゃったらどうするんだろう。

 そこまで考えて愕然とした。まさか、このパラダイスの裏には残酷な現実があるのではないか。
 私は子犬たちを救うべく、コツコツ貯めたお金をすべて使い、ペットショップにいる子犬をみんな買った(30代独身OLの財力をナメるなよ!)。

 しかし、翌日再びペットショップに行ってみると、パラダイスが復活している。私は借金をして、またしても全ての子犬を救った。
 だが、パラダイスは何度でも復活した。
 私は金を作るために、ありとあらゆる犯罪に手を染めた。私の部屋はフワフワの子犬であふれかえり、最早すべての子の世話をするのは不可能だった。
 しかし、捨ててしまっては、どの道保健所に連れて行かれ、私が救わなかった時と同じ末路をたどるだろう。
 私は子犬たちに身の守り方を仕込んだ。人間の視野は約200度。だから4匹で適切なフォーメーションを組めば、誰か1匹は死角から攻撃ができる。子犬といえども人間を倒すことが可能だ。
 私は戦い方を覚えた子犬たちを外に放した。

 あっという間に街には野犬が跋扈した。行政が駆除に乗りだしたが、野犬は訓練をうけた特殊部隊さながらの動きで人間たちを圧倒しているらしい。街の治安は悪化し、強盗やスリ、置き引き、万引きが多発、麻薬も広まっているらしい(このうちの何パーセントかは私の仕業だ)。

 しかし、ペットショップのパラダイスは止まらない。
 だから私は戦い続ける。
 今日も街には犬の遠吠えとサイレンの音が響き渡る。