故郷をなくした

 帝国軍の新兵器が僕の母星を破壊した時、僕は新しく作ったシェルターを試すためにその新型シェルターの中に入っていた。

 平和な星ではシェルターは売れない。だから僕の星でもシェルターは全然売れなかった。でも僕は強いシェルターを作るのが楽しくってどんどん強いシェルターを開発していった。
 そんな平和な星が、どうして帝国軍の標的にされたのかはわからない。あるいはただの実験台だったのかもしれない。
 とにかく、僕は故郷を星ごと失い、唯一の生き残りになってしまった。

 宇宙難民になった僕に、銀河連邦政府は地球を紹介してくれた。地球は、僕と同じサル型宇宙人が支配する惑星で、空気の成分や環境も似ていた。
 僕はサラリーマンとして、地球で第二の人生を歩むことになった。

 故郷を失ったのは確かに悲しかったけど、あまりにスケールの大きな失い方だったので、なんだかピンとこなくて、思ったよりもショックを感じなかったというのが正直なところだ。別の星で暮らすことになって必死だったから、悲しむヒマもなかったのかもしれない。

 ある日、同僚のヨシムラを飲みに誘うと、珍しく断られた。
「悪い! 今日はコンドウさんとかと飲む予定が入ってるんだよ」
「そっか。じゃあまた今度な。お前って、コンドウさんと話したりするんだな」
「ああ。実はコンドウさんも長野出身でさ。今日は長野会なんだ。オオヤマ課長とかも来るんだぜ」

 別の日、営業のヨシミが大きな仕事を取ってきた。
「すごいなー。ヨシミくん」
「いえ、たまたま先方のお偉いさんが栃木出身だったんです」
「まさに同郷のヨシミってわけだ!」
「「ハハハハハ!」」

 またまた別の日、社内の大きな飲み会で宮崎出身のイシハラが、早々と酔っぱらっていた。
「おいおい、イシハラくん、その辺にしときなよ」
「何を言っちょるんじゃひか。わいはまだ平気やっちゃが」

 段々と胸が痛くなってきた。日常の些細な出来事が、僕にはもう故郷がないという事実を突きつけてくるのだ。僕には同郷のよしみが二度と手に入らない。僕の星の言葉を話す人ももういない。
 僕は、自分の星の言葉で、ひっそりと日記を書くことにした。


 数年後、秘密警察によって発見された僕の日記は、自国の情報を敵国に送るための暗号文と解釈されてしまった。調べても過去の素性がわからないことも、疑惑に拍車をかけてしまい、僕は長いこと投獄されてしまった。
 のちに誤解が解け、僕は釈放された。そして、この事件を追っていた物好きな記者が僕の経験をドキュメンタリー作品にしたてあげてくれた。しかし、宇宙人だの帝国軍だの銀河連邦政府だのが出てくる話は、地球人には受け入れがたかったらしく、ドキュメンタリーというよりB級SFとして評価された。

 そのドキュメンタリーをたまたま観ていた少年がいた。彼はこの作品に何故か心ひかれた。故郷をもたない宇宙人の姿が、いつも心のどこかで孤独を感じている自分と重なるような気がしたのだ。
 成長した彼は、ダンスを始めた。踊っている時だけは、自分が人と、世界と、宇宙と繋がっているように感じられた。やがて彼は自らダンスチームを結成する。その頃にはもう、あの宇宙人のことなんて忘れていた。でも、記憶の深い部分に、故郷をもたないあの姿が焼き付いていた。彼は自分のダンスチームにこう名付けた。EXILE(流浪者)と。