インドバンド
なんか最近アタマの調子がおかしい。急にイライラしたり、そわそわしたり、落ち着かない。何かを傷つけたり、愛したりしたいって思う。ちょっと気持ち悪い。だけど! 自分では! どうしようも! ない!
このあたしのカラダの内側で暴れてるなんらかの衝動をどうにか発散しないと、破裂してバラバラになっちゃいそう。でも、どうしたらいいんだろう。こういう気持ちを持て余した時、うっかり非行に走っちゃうと大変なことになっちゃうんだろうな。慎重にならなきゃ。
それで、色々考えた結果、あたしはバンドをやることに決めた。ギターによる焦燥音楽、それすなわちROCK。この形容しがたいモヤモヤをどうにかするには、ロックが一番いいような気がする。
ただひとつだけ問題があって、実はあたし、仲のいい友だちがいないんだ。これじゃあバンドじゃなくて弾き語りになっちゃう。でもあたしがやりたいのはあくまでバンドなんだ。ドラムのビート、直線的なベースラインに扇情的なギター、そして熱いボーカル。
なんとかひとりで出来ないかなってやってみたら、出来た。
小さい頃、お兄ちゃんと一緒にやってた格闘ゲームに、インド人のキャラクターが出てて、そのインド人はヨガの達人だった。インド人は「ヨガッ!」とか言いながら、腕をビョーンと伸ばしたり、火を噴いたり、テレポートしたりして、ちっちゃかったあたしはすごく憧れた。その時に始めたヨガが役に立った。ひとりでギターとベースとドラムをやるには、ものすごい体勢にならなくちゃならない。ヨガで鍛えた柔軟性がなければ到底不可能だっただろう。
あたしは自分のバンドに「友だちいないから1人で全部やるもんズ」と名付けた。まぁひとりだから「ズ」じゃないんだけどさ。
文化祭の後夜祭のステージを目標に、「友だちいないから1人で全部やるもんズ」は練習を重ねた。
そして文化祭当日。
あたしには自信があった。観客のド肝を抜いてやるぜ。
司会があたしを紹介する。
「それでは、続いて『友だちいないから1人で全部やるもんズ』、略して『やるもんズ』です。どうぞ」
勝手に略すな。この意味なく長い名前がいいんじゃないか。
「どうも、こんばんは。『友だちいないから1人で全部やるもんズ』です。よろしくお願いします。」
最初のあいさつは礼儀正しい方がいい。その方が演奏とのギャップが出て面白い。
「ジャーーーン!」
最初の一音からトバす。みんな、着いてこいよ。
あたしはノリが良くて、有名な曲ばかり選んだ。その方がみんな楽しんでくれる。
みんな飛び跳ねたり、頭を振ったりして、めちゃくちゃノっている。最高!
あたしは何かが満たされたような感じになって、どんどんテンションが上がってくる。「恍惚」ってこういう状態をいうのかな。演奏の方もヒートアップして、だんだん知恵の輪みたいな体勢に…… あれ?
気がつくと、なんか観客が冷めている。
「うわっ」「ひくわー」「キモッ」
どうやらありえない体勢で演奏するあたしの姿が、あまりに異様すぎてみんなひいてしまったみたいだ。あたしは逃げるようにステージを降りた。
そもそも、腕が伸びるインド人に憧れるような感性だったから、きっと友だちもいないんだ。「ヨガ」は古いインドの言葉で「繋がり」を意味する。
――誰とも繋がらないあたしの「ヨガ」