俺テレビ

 出席確認が嫌いだった。
 小学生のころ、朝の会で「○○くん」と呼ばれたあとに「はい元気です!」と答えなくてはならなかった。その時の声の大きさが問題なのだ。前の人と同じくらいの大きさの声で返事をすればよいのだが、幼い私にはそれが難しかった。自分からどれくらいの大きさの声がでるのか皆目見当がつかなかったのだ。
 人より小さい声が出てしまったら暗い奴だと思われてしまうし、逆に大きな声が出てしまったら目立ちたがりとして浮いてしまう。
 毎朝毎朝、私はビクビクしながら「はい元気です」と繰り返した。


 この忌々しい儀式を克服するために私はテレビと融合することを決意した。
 テレビ人間になれば音量の調節は楽チンだし、場面に合わせてチャンネルを変えることもできる。


 先生の前「ピッ」友だちの前「ピッ」女子の前「ピッ」親の前「ピッ」


 両親に内緒で私はおこづかいをみんな使ってテレビ人間になった。
 テレビと融合してからの私の人生はバラ色だった。朝の点呼はもちろん、人間関係も完璧にこなせた。もう何も怖くない!


 しかし、2011年7月24日正午。地上アナログテレビ放送は終了し、地上デジタル放送に完全移行した。私のチャンネルには何も映らなくなってしまった。
 不要になった私は荒野に捨てられた。今私は、誰もいないこの場所で思いっきりボリュームを上げてみたり、急にミュートにしてみたりしている。