ロング・ロンガーズ

かつて「ロング・ロンガーズ」というロックバンドがいた。
彼らが活躍した1980年代と1990年代の谷間は、いわゆるバンドブームの絶頂期で、多くのバンドが現れては消えていった。「ロング・ロンガーズ」もそのうちのひとつである。数えきれないほどのロックバンドの中で、たいした実績を持たない「ロング・ロンガーズ」が私の記憶に残っているのは、その音楽性ではなく、ヴィジュアルのためだ。
「ヴィジュアル」といってもXやCOLORを皮切りに90年代に流行した、いわゆるヴィジュアル系とは違う。彼らの外見=ヴィジュアルは、見世物小屋的な異質さを持って、見るものに強いインパクトを与えた。ボーカルのイケオは天狗のように鼻が長かったし、ギターのカミツはサルのように手が長かった。ベースのマツモトもキリンのように首が長かった。ドラムの長谷川だけは外見的な特徴がなかったが、見えない部分が蛇のように長いのだと噂された。


1989年と1990年の間、谷間の時代。私はまだ学生だった。ライブハウスで酒を飲んでいると、誰かが「とんでもないバンドが演奏してる!」と騒ぎ始めた。私は歴史の生き証人になるような気持ちでステージの方へ向かった。そこにいたのが「ロング・ロンガーズ」だった。
彼らは確かに「とんでもないバンド」であったが、サウンドは平々凡々であった。誰も彼らを嫌いにならないが、その代わり誰からも好かれないだろうと思わされるような音楽だった。
今にして思えば、彼らの音楽は完璧に「谷間の時代」を表現していたのだと思う。時代を完璧に表現してしまったがゆえに、彼らは誰からも求められなかったのだ。なぜなら彼らが表現しているソレは、その時代のあらゆる場所に存在しているからだ。音楽というのは、偏っていないといけない。人はその偏りの歪さに魅かれるのだから。


私は4000年後の世界を想像する。4000年後の人類が、彼らのCDを発見したらどう思うだろうか。彼らが演奏している写真が使われているジャケットは、3匹の悪魔に襲われている人間に見えるのではないか。鼻の長い「高慢」、首が長い「虚勢」、腕が長い「強欲」。三人に囲まれた位置でドラムスティックを高く掲げている長谷川の姿は、「やめてくれー」と叫んでいるように見える。


(あ、ドラムの長谷川は名前に「長」が付くから「ロング・ロンガーズ」のメンバーなのか?)