ノンバーバル・ノベンバー・フェス

 夏休み、突然あたしの中の何かが剥がれ落ちた。
 それから、あたしは学校の友だちと連絡を取るのをやめた。

 新学期になって学校へ行くと、友だちが色々と心配して声をかけてくれた。あたしはその全てを無視した。ごめん、みんなの事が嫌いなワケじゃないんだけど。こんなことをしたらイヤな思いをさせることもわかってる。でも今は、誰とも話したくないし、誰にも笑いかけたくないんだ。

 すぐにあたしに声をかける人はいなくなり、あたしは孤立した。移動教室の時も、お昼の時もひとりだ。ひとりっていうのは、それなりに寂しいし、それなりに楽だ。でもどちらかといえば寂しいの勝ち。それでもあたしは話す気が起きなかった。
 文化祭も体育祭も無言で通した。周りのみんなが上手にあたしをないものとして扱ってくれたおかげで、無事に乗り切ることができた。一瞬、あたしが透明人間にでもなってしまったのかと思ったけど、集合写真にはバッチリ映っていた。ちゃっかりピースもしていた。
 何か寒くなってきたな、と思っていたら11月だった。あたしの学校では11月25日に切腹祭という行事がある。昔、うちの学校の卒業生が切腹した記念だそうだ。切腹って記念して祭りにするほどめでたいものなのか。まぁとにかく、切腹祭の日は全校生徒が切腹する。血のりを詰めた袋を腹に抱えて、好きな言葉を叫びながら模造刀で腹を切るのだ。クラスの真ん中よりちょっと上のグループの人たちが告白するのに使うことが多い。あとは先生への悪口とか自虐ネタなんかがウケる。
 あ、あたしも何か言わなきゃいけない。何て言おう。普通に「ワーッ」とか「ギャーッ」とかで誤魔化そうかな。言いたいこともないし。無言っていうのもありなのかな。みんな、あたしが何て言うか気にしてるかな。それは自意識過剰か。

 結局あたしは何も考えずに切腹祭当日を迎えてしまった全校生徒が壇上に向かって一列に並んでいる。切腹をするために列に並ぶなんてシュールだな。何て叫ぶか考えなくちゃいけないのに、そっちの方向に頭が働かない。ついにあたしの番がきた。刀を立てて腹を切る。

「ごめんなさい!」

 あたしの口をついて出て来たのは、謝罪の言葉だった。でもそれは、友だちに向けられた言葉では、たぶん、ない。自分でもわからない。制服が真っ赤に染まっていた。