ブックオフ円環構造

 じいちゃんが死んだ。じいちゃんはすごい読書家だった。以前から自分が死んだら、本棚は俺に譲りたいと言っていたらしく、じいちゃんの本棚は俺のものになった。

 じいちゃんの本棚はでっかかったけど、本はこれに入るだけってばあちゃんと約束していたらしい。だから、この本棚にはじいちゃんが厳選した良書だけが並んでいる。

 俺はその本を全部ブックオフに売った。そこそこの額になった。

 「悪銭身につかず」って言葉があるけど、そのお金はすぐになくなった。冷静になって考えると俺はすごく酷いことをしてしまったんじゃないだろうか。正直、後悔してる。

 じいちゃんの本は全部ブックオフの中にある。本棚を見れば、その人の頭の中がわかるっていう話を聞いて「いけすかねぇ〜〜」と思ってたけど、今はじいちゃんの頭がすっぽりブックオフの中に収まっているようなイメージが俺の中に浮かんでいる。本当は俺が受け継ぐはずだったのに。

 もし、俺が売った本を誰かが買ったら、それはじいちゃんの一部が誰かに買われたということだ。そうやってじいちゃんはいくつかの断片になってブックオフを旅立って行く。じいちゃんの本を読んだ人は、一部分じいちゃんと化す。こうやってじいちゃんは拡散、増殖していくんだ。

 そして、その中の一人が新しく本を書く。その本は何%かじいちゃんで出来ている。その本がまたブックオフに売られたら、じいちゃんがブックオフに帰還したも同然だ。こうやって、じいちゃんはブックオフを媒体とした円環構造の中に取り込まれて永遠の存在となる。

 今日も俺はじいちゃんに会いにブックオフへ行く。