見斬りのオファー

 福本清三さんを知っているだろうか。時代劇で斬られ役を演じ続け、「5万回斬られた男」という異名を持つ俳優だ。テレビで紹介されているのを見て、俺は体に稲妻が走るのを感じた。

 あくまで裏方として相手を輝かせる姿勢、斬られ役に特化することで獲得した唯一無二の個性。俺は福本清三さんに憧れて、自分もそういう俳優になりたいと思った。

 ただ、同じように斬られ役を目指しちゃダメだ。唯一無二の存在になるためには、ニッチな需要に高いレベルで答えなければ。

 「巨大なゴリラに握りつぶされる役」と迷ったが、俺は「体の内側から爆ぜる役」で世界を獲ることに決めた。主にSF映画の序盤で、謎の存在に殺される役どころだ。ただ殺されるのではなく、常識的にはありえない「体の内側から爆ぜる」という死に方をすることで、相手が人知を超えた存在であることや、その恐ろしさを引き立てることができる。

 最初はすごく苦労した。体が内側から爆ぜたことなどないので、どう表現すればいいか、そのとっかかりが掴めない。何度もレンジで卵を爆発させて観察したり、キンキンに冷やした鉄球を飲み込んで、体の内側を感じてみたりした。

 自分の演技に納得できるようになってからも、つい初心を忘れて目立ちすぎてしまったり、仕事のえり好みをしすぎて食えなくなったりした(「体の内側から爆ぜる役」を必要としている作品は多くない)。

 最近ようやく認知されてきて、なんとか俳優業だけで暮らしていけるようになった。

 そんな中で、ちょっと大きい仕事が入ってきた。人気沸騰中の若手俳優を主演に据えた、人気漫画の実写化の話だ。望まずしてエスパーになってしまった主人公が、邪悪なサイキック軍団に立ち向かうというストーリーだ。俺の役はもちろん、序盤で悪のエスパーの超能力で、体が内側から爆発して死ぬ役だ。その死によって主人公が戦う決意をするという大事な役で、俺の過去の仕事を知っているスタッフさんがいて、オファーに繋がった。

 俺は気合をいれて撮影に臨んだが、主演の俳優がスキャンダルを起こし急遽降板、代役を立てることとなった。その後も、監督がプロデューサーと対立しスッタフが全員辞める等など、信じられないようなアクシデントが連発した。挙句の果てに原作者が実写化を拒否し、ストーリーにも大幅な変更が加えられることになった。

 そもそも、旬な若手俳優で一稼ぎしようという見切り発車的な企画だったらしいが、すでに劇場をおさえてしまっているので、今さら制作中止という訳にもいかない。やぶれかぶれで撮影は続いた。

 完成した映画は、なんだかよくわからない青春恋愛ムービーのようなものになり、私の役は「発作的に体が内側から爆発しそうになるクラスメイト役」となった。セリフもなければ爆発もしない。

 映画の評価は散々で、邦画史上最低の作品などと言われた。どうせ悪口しか書かれていないから読まなければいいのに、俺は気になってネット上の感想を読み漁った。

 その中に「いまにも爆発しそうなモブがいて草」というコメントを見つけた。俺は自分の演技が届いていることを知り、静かに泣いた。