合コンに行ってきた。

 動物好きが集まる合コンに行ってきた。参加者はトリマーや飼育員のような仕事で動物と関わる人から単なる愛犬家のような人まで様々だった。合コンは、友だちの紹介でやるのが一番気楽だし勝率もよい。業者が絡んでいるタイプの合コンは玉石混交だけど、経験上、参加者がピンポイントな企画の方が当たりが多い。俺も昔、動物に関わる仕事をしていたので、この合コンに参加することにした。

 実は、俺は昔、条約によって国際取引を禁止されている動物を密輸する運び屋だった。空路を避けて、船で数日かけてオオテナガテングキツネを運んだ。当然、運んでいる間は世話もする。

 オオテナガテングキツネの飼育方法は、全部ボスから学んだ。(ボスと呼べと言われたのでボスと呼んでいたが、密輸組織全体からみたら班長といった感じのおっさんだった。)ボスが言うには、オオテナガテングキツネは非常に難しい動物だ。まず、水は丸い皿で与えなければならない。でないとグンミヘになってしまう。

 グンミヘが何かはよくわからないが、丸い皿がなかったので、代わりに角盆で水を与えたら、ボスが血相を変えて怒った。「そんなことしたら、グンミヘになってしまうだろうが!」俺が、今すぐ丸い皿を探してきますと言ったら「もう遅い!」とさらに声を荒げた。

 それから、夜はサンタ・ルチアを子守唄代わりに歌わなくてはならない。ボスの説明では、サンタ・ルチア(イタリア語歌詞)のバイブスがオオテナガテングキツネの母親が子どもを寝かしつける時の鳴き声とそっくりなのだそうだ。俺は、毎晩サンタ・ルチアを(イタリア語で)歌ったが、途中で飽きてきて、適当な替え歌を歌うようになった。なんなら替え歌にも飽きて、スピッツのチェリーとかを歌っていた。

 ボスがそれを見つけて、また「そんなことしたら、ボヘンノになっちまうだろうが!」と怒った。相変わらずボヘンノが何かは分からなかったが、とにかくそれはもう取り返しのつかないことらしかった。

 そんなこんなで毎日のように何かしらのミスをやらかし、その度にオオテナガテングキツネはウゼアノとかヒッケゼとかになった。

 しばらくして日本に着いて、オオテナガテングキツネを引き渡す時、ボスが「自分のミスをきちんと説明しろ。それがプロってもんだ」と言うので「すみません。このオオテナガテングキツネ、俺のミスでグンミヘでボヘンノでウゼアノのヒッケゼになってしまいました」と謝った。相手は「そうか。とりあえず元気そうだな」と言った。

 ボスは「相手が無知で助かったな」と言ったが、今考えるとあれはボスが俺をからかっていただけじゃないのだろうか。本当はオオテナガテングキツネは手のかかる動物じゃなかったんじゃないか?

 話は戻るけど、そういう過去を脚色して、俺は動物好きが集まる合コンでうまいこと話し、見事にペットショップに勤める女の子と付き合うことになった。もうすぐ半年になる。

 今日、仕事終わりの彼女が人間関係で悩んでいたので「一番難しい生き物は人間だよね」と励ましたら「いや、オオテナガテングキツネの方が難しいよ」と返された。