夏の怪談シリーズ「神隠され」

 誰かとはぐれて一人ぼっちになった時、それはやってくる。そして、それは一人ぼっちのあなたと入れかわり、それはあなたに、あなたはそれになる。私は、家族旅行の最中に電車に乗り遅れてしまい、それに捕まってしまった。それは私に代わって家族旅行を続けたのだろうか。

 それは「神隠され」という。神隠しに遭ったもののなれの果てだ。私のような大人が神隠されになるのは珍しいらしい。大抵は迷子になった子どもとかが神隠されの餌食となる。神隠されは、一人ぼっちの人間を見つけて入れかわると、その人間の性格や記憶を引き継いで、その人間として暮らすらしい。だんだんと元の記憶は消えていくが、自分が神隠されだという意識だけは残り続ける。
 私は人混みで友人とはぐれた若者と入れかわった。だんだんと、昔のことが思い出せなくなってきた。ただ、足の指を蚊に刺された時のかゆみのように、ずーーーーーーっと自分が自分でないという感覚がつきまとっている。